
企業においてリスクファイナンスの導入が必要不可欠な理由
目次[非表示]
- 1.リスク対策の1つであるリスクファイナンス
- 2.リスク保有とリスク移転
- 3.リスクマネジメントで把握したリスクをもとに決める
- 4.主な4種類のリスクファイナンス
- 4.1.災害に関する保険
- 4.2.CATボンド
- 4.3.コンティンジェント・デット
- 4.4.政府のセーフティネット保証
- 5.リスクコントロールとして有効なその他の防災対策6選
- 5.1.BCP・防災マニュアルを策定する
- 5.2.防災グッズを準備しておく
- 5.3.安否確認サービスを導入する
- 5.4.迅速かつ正確な情報収集を行う
- 5.5.事業所に防災対策を施す
- 5.6.ハザードマップを確認する
- 6.自然災害などリスク情報の収集やBCPで活躍するFASTALERT
- 7.まとめ
- 8.関連お役立ち資料集
リスク発生による損失を最小限に抑えるために財務面での対策であるリスクファイナンスを事前に導入しておくことが重要です。
しかし、リスクファイナンスはBCPなどに比べると十分に重視されていない傾向があり、具体的にどのようにリスクファイナンスに取り組めば良いのか分からない方も少なくないでしょう。
今回はそんな方のためにリスクファイナンスの基礎知識と主な種類、その他の防災対策などを説明していきます。この記事を読むことで効果的なリスクファイナンスの取り組み方が分かるので、ぜひ読み進めてください。
リスク対策の1つであるリスクファイナンス

リスクファイナンスとは、災害などのリスクによって発生した損失を抑える財務面での対策のことです。リスクファイナンスはリスクマネジメント(リスク管理)の中に含まれており、リスクを以下の2種類に分類しています。
※リスクマネジメントとは、リスクを特定し、そのリスクを回避またはその影響を最小限に抑えるプロセスのことです。
【純粋リスク(静態的リスク)】
企業に損失のみをもたらすリスクのことで、地震などの自然災害や事故などが含まれる
【投機的リスク(動態的リスクまたはビジネスリスク)】
企業に損失または利益をもたらすリスクのことで、投資や新サービスの開始などがある
リスクは企業に影響を与える事象であると言えるので、発生する可能性のあるリスクを洗い出した上で適切なリスクファイナンスを導入しましょう。
リスク発生時に事業を継続させるためのBCP(事業継続計画)や防災対策をはじめとしたリスクコントロールの重要性は認知されていますが、損失をカバーするためのリスクファイナンスはあまり普及していないのが現状です。
※リスクコントロールとは、リスクの発生を防ぐ、またはリスクによる被害を最小限に抑える取り組みのことです。
あらかじめきちんとリスクファイナンスを導入しておかないと万が一の事態が発生した際に事業の立て直しができず、倒産してしまうおそれがあります。
例えば東京商工リサーチが発表する『“震災から9年”「東日本大震災」関連倒産状況(2月29日現在)』によれば、東日本大震災の発生に関連して倒産した企業は1,946社です。
倒産した主な理由には、復旧のための補助金を受けたものの業績が回復しなかったことなどがあげられます。
さらに詳しくリスクマネジメントを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
リスク保有とリスク移転

リスクファイナンスの方法には、リスク保有とリスク移転の2種類があります。それぞれの意味は以下のとおりです。
【リスク保有】
リスク発生によってもたらされる損失を受容すること。積立金など、あらかじめ蓄えていた資金で補填することなどがあげられる
【リスク移転】
発生したリスクによる損失を第三者に負担(移転)させることで、保険への加入などがある
上記のどちらか一方を選ぶという訳ではありません。発生するおそれのあるリスクの影響度に合わせて適切な種類のリスクファイナンスを組み合わせリスクに備えます。
リスクマネジメントで把握したリスクをもとに決める

必ずしもリスクコントロールだけではリスクによる損失をきちんと防げるとは限らず、財務面での対策としてリスクファイナンスを実施しておくことが重要です。
そのため、まずはリスクマネジメントを行なって、起こり得るリスクを特定・分析しましょう。
リスクマネジメントの手順は、以下の4ステップです。
- リスクを特定する
- リスクを分析・評価する
- リスク対応を行う
- 定期的にリスクマネジメントを実施する
1でリスクを徹底的に洗い出し、2で優先的に対処するべきリスクを選びましょう。
これに基づいて3でリスクコントロールまたはリスクファイナンスを行いますが、実施するリスクファイナンスは、自社の財務状況や取引先などのステークホルダーの要望を考慮しながら決めます。
主な4種類のリスクファイナンス

ここまでリスクファイナンスの基礎知識を説明しました。次に代表的なリスクファイナンスの種類を紹介していきます。
どれも重要な内容になるので、ぜひ読み進めてください。
災害に関する保険
自然災害や事故による損失を補償する保険です。定期的に保険料を負担する必要がありますが、リスク発生時の損失を保険会社に移転することができます。
主な保険は以下のとおりです。
【火災保険】
火災などによって建物や家財に損失を受けた場合に補償する保険
【地震保険】
地震・噴火・津波によって生じた損失を補償する保険
【自動車保険】
交通事故など自動車の利用で発生した損失を補償する保険
【企業財産包括保険】
企業を取り巻く様々なリスクによる損失を補償する保険
地震保険は火災保険ではカバーできない地震・噴火・津波が要因となって発生する火災による被害も補償しています。ただし、単独では加入できず火災保険とセットで加入する仕組みです。
企業財産包括保険は、建物や動産の損失だけでなく、被災から復旧するための費用や休業によって得られなかった利益も補償するのが特徴で、あらゆる損失を防ぐ意味で企業財産包括保険に加入すると良いでしょう。
ここでは簡易的な紹介となりましたが、さらに詳しく防災対策として使える保険を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
CATボンド
CATボンド(Catastrophe bond:大災害債券)とは、地震や台風など自然災害のリスクを投資家に移転した証券のことです。
事業債よりも高い利率で発行しますが、自然災害の発生によって事前に契約で定めた条件に基づいた金額を複数の投資家から受け取れる仕組みになっています。
もちろん契約期間中に条件に該当する自然災害が発生しなければ、証券を持つ投資家は利払いと元本を受け取ることができます。
保険とは異なり、契約時に定めた条件を満たした場合に金銭を受け取れるため損害の調査が必要な保険よりも素早く損失をカバーすることができるのが特徴です。
コンティンジェント・デット
コンティンジェント・デットとは、災害や事故などのリスク発生時にあらかじめ定めた条件や融資枠に基づいて借入ができる契約のことです。
企業はSPV(特別目的事業体)と契約し、手数料を支払い、リスク発生時に融資を受けられます。
融資を受けるという仕組み上、通常に利用するとリスク移転の側面が弱く、負担がかかるおそれがあるので、融資の償環期間を長くするなどの工夫をしましょう。
政府のセーフティネット保証
セーフティネット保証とは、取引先の倒産や災害による被害など様々な理由で業績が悪化している中小企業を救済するために所定の金額を一般保証とは別枠で融資する制度です。
以下の4ステップで手続きを行います。
- 必要な書類を用意して、市町村に認定申請を行う
- 金融機関に認定書を持って、融資を申し込む
- 信用保証協会・金融機関によって審査が始まる
- 審査に合格すると融資が行われる
一般社団法人の全国信用保証協会連合会が発表する「経営に支障が生じている方 新型コロナウイルス感染症対策を含む」では、普通保証2億円、無担保保証8,000万円の融資を行なっているようです。
ただし、セーフティネット保証の申し込みは対象者のみに限定されており、さらに審査があるため、必ずしも融資を受けられるとは限りません。
リスクコントロールとして有効なその他の防災対策6選

リスクファイナンスだけではなく、リスク発生による損失を最小限に留めるためにきちんとリスクコントロールも導入しておきましょう。
ここではリスクコントロールとして効果的な防災対策を解説していきます。
BCP・防災マニュアルを策定する
災害や事故の発生に備えて事前にBCP・防災マニュアルを作成しておきましょう。BCPとは、災害などのリスク発生時に事業を継続させる、または早期復旧を図るための計画のことです。
このBCPではリスク発生時の対応を明確に定めておきますが、策定していないまま災害などに巻き込まれると混乱が生じることで適切な判断を行えず、迅速に事業を復旧することができないおそれがあります。
策定したBCP・防災マニュアルを浸透させるためには定期的な訓練が欠かせません。この訓練ではきちんとリアリティのあるシナリオを用意し、様々な対応を学ばせましょう。
また訓練終了後にBCP・防災マニュアルを改善していくことで、より完成度の高い内容に近づいていきます。
より詳しくBCPや防災マニュアルを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
防災グッズを準備しておく
大規模な災害が発生し深刻な被害を受けると自社の従業員が帰宅困難者となるおそれもあるので、事前に防災グッズを準備しておきましょう。
一般的に水道・ガス・電気などのライフラインの復旧や救助活動が落ち着くまでに3日程度かかると言われています。そのため、3日分を最低限とし余裕を持って1週間分の防災グッズを揃えておくと良いでしょう。
2011年の東日本大震災で首都圏を中心に約515万人の帰宅困難者が発生。これを機に内閣府は「東京都帰宅困難者対策条例」の条例第17号で、以下のように企業に対して防災グッズの確保に努めるように要請しました。
『事業者に従業者の一斉帰宅の抑制と従業者の3日分の食糧等の備蓄についての努力義務を課します』
この条例の対象となっているのは正規・非正規を問わずに同じ事業所で働く全従業員であり、全従業員分の防災グッズを確保しておくことが望ましいです。
この条例にある努力義務とは、「〜するよう努めなければならない」という意味合いであり、破ったとしてもこの条例に関する罰則を受けることは現状ではありません。
ただし、この条例とは別に企業には「労働契約法」の第5条によって従業員に対する以下の安全配慮義務が課せられています。
『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』
コストが惜しいからと一切の防災グッズを用意しなかったことが原因で従業員に被害を与えてしまった場合、安全配慮義務違反として法的責任を問われ、従業員に対して損害賠償金を支払わなくてはなりません。
そのため、全従業員分とまではいかなくても、できうる限りの防災グッズを備蓄しておくと良いでしょう。
用意する防災グッズの種類や量を詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
安否確認サービスを導入する
災害はいつどこで発生するのか分からず、自社の従業員が取引先などの出先で被災するおそれもあるため、きちんと安否確認サービスを導入しておきましょう。
安否確認には従業員の状況を確認することはもちろん、事業の復旧に携わる従業員を集めるという重要な役割があります。
電話やメールで十分だと考えている企業担当者の方も中にはいるかもしれません。しかし東日本大震災では震災直後に安否確認で電話・メールの利用者が殺到したことで輻輳状態に陥り、一時的に利用できませんでした。
そのため、電話やメールだけではなく、連絡アプリや安否確認サービスの導入など、その他の手段も必ず用意しておきましょう。
また事業所内で安否確認サービスを操作できるようにしたり、1人の担当者に任せたりしてしまうと迅速に安否確認ができないおそれがあります。
どのような場所でも安否確認できるように複数の担当者を選んだり、インターネットブラウザであれば操作できる安否確認サービスを用意すると良いでしょう。
さらに詳しく安否確認を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
迅速かつ正確な情報収集を行う
災害や事故などのリスク発生時は迅速で正確な情報収集が不可欠です。
情報収集の方法にはテレビやラジオなど様々な手段がありますが、近年は個人間だけでなく報道機関などの企業や自治体で以下3つのメリットがあるSNSが注目を集めています。
- 報道前の投稿をリアルタイムで確認できる
- 報道ではカバーしきれない細かい情報も把握できる
- 災害発生時でもインターネットが繋がれば使える
情報収集を行う上で非常に役立つSNSですが、悪質なデマ情報の投稿や情報が埋もれやすいという課題を抱えており、人海戦術による調査では分析にどうしても時間がかかってしまいます。
この問題を解決するためにFASTALERTなどをはじめとしたSNS緊急情報サービスを導入する報道機関などの企業が増えています。
FASTALERTなどのSNS緊急情報サービスは、AIが自動的にSNS上に投稿された情報を収集・解析し、正確な情報を利用者に提供する仕組みです。
人海戦術にかけていた余計なコストをカットできるので、まだ導入していない方は検討すると良いでしょう。
事業所に防災対策を施す
災害による二次被害を最小限に抑えるために事業所に防災対策を実施しておきましょう。事業所内でできる効果的な対策は、主に以下の3点です。
【キャビネットやOA機器を固定する】
落下や転倒などで従業員が負傷するおそれがあるため、キャビネットなどは壁につけ突っ張り棒で固定しましょう。
またOA機器も同一の理由でジェルマットやバンドで固定します。
【窓ガラスなどに飛散防止シートを貼る】
飛び散ったガラス片による負傷を防ぐために、あらかじめ窓やガラス製の扉には飛散防止シートを貼っておきましょう。
【避難経路を確保する】
スムーズに避難するために出入り口など避難経路付近には物を置かないようにしましょう。
災害別に詳しく防災対策を知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
ハザードマップを確認する
事業所付近にどのようなリスクが潜んでいるのかを把握するために事前にハザードマップを確認しておきましょう。
ハザードマップとは、災害による被害や範囲を予見し、安全な避難場所・避難経路を記載した地図のことです。
ハザードマップは災害別に用意されており、国土交通省や自治体のHPで発表されています。
ただし近年は複数の災害がほぼ同じタイミングで発生する複合災害が頻繁に起きているため、万が一の場合に備えて複数のハザードマップを確認した上で2箇所以上の避難場所・避難経路を決めておくと良いでしょう。
ここでは簡易的な紹介となりましたが、さらに詳しく複合災害を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
自然災害などリスク情報の収集やBCPで活躍するFASTALERT
災害発生時は、意思決定に基づいた初動対応をすみやかに開始するために、被害状況などの情報収集を行わなければなりません。
しかし、災害発生時はリソースが限られた状況の中で情報を精査しなければならず、場合によっては対応しきれないおそれがあり、これによって的確な対応ができない可能性があります。
この状況を解決するために自治体や企業では、AI情報収集サービス「FASTALERT」が活用されています。
FASTALERTは、自然災害・事故・事件など自治体や企業におけるリスクが発生した場合にAIが正誤を分析した上でほぼリアルタイムでサービス利用者に提供する仕組みです。
弊社ではFASTALERTの紹介資料やSNSで炎上が起きる理由など、企業や自治体の防災担当者が抱えるお悩みを解決するために防災に関する資料を幅広く用意しています。
詳しくご覧になりたい方は、「防災お役立ち資料」から資料をお気軽にダウンロードしてください。
まとめ
今回はリスクファイナンスの基礎知識と主なリスクファイナンスの種類、リスクコントロールとして有効な防災対策などを紹介しました。
本記事の重要なポイントには、以下の3点があげられます。
- 企業に影響を与える事象は全てリスクだと考えられる
- リスクマネジメントでリスクを洗い出して分析していく
- 損失をカバーするためにリスクファイナンスとリスクコントロールを実施することが重要
この記事を参考にして適切なリスクファイナンスを導入しましょう。