
コロナ禍で導入するべき防災マニュアルの基礎知識と策定手順
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コロナ禍で自然災害などの災害が発生すると、十分に対策されていなければ避難先で集団感染が増加してしまうおそれがあり、早急な対応が求められているのが現状です。
そのため、新型コロナウイルスを踏まえた防災マニュアルへ更新する必要がありますが、具体的にどのように見直せば良いのか分からない方もいるでしょう。
この記事ではそんな方のためにコロナ禍における防災や新型コロナウイルスを考慮した防災マニュアルの策定方法などを紹介していきます。
この記事を読むことで新型コロナウイルスに対応した防災に取り組む上でのヒントになるので、ぜひ参考にしてください。
※本記事には現時点(記事公開時点)の情報が含まれています。今後の研究結果や動向によって、内容が変わるおそれがあるため、ご注意ください。
コロナ禍で複合災害に繋がった場合のリスク

新型コロナウイルスが蔓延する今の状況下で地震や台風などの自然災害が発生した場合、自然災害による被害だけでなく、避難先で新型コロナウイルスの集団感染が増加するなど深刻な事態を迎えてしまうおそれがあるのです。
ほぼ同じタイミング、または復旧作業中に別の災害が発生することを複合災害と呼びますが、複合災害へ発展すると深刻な被害に陥るおそれがあり、復旧も長期化してしまうリスクがあります。
またコロナ禍+自然災害が発生すると、新型コロナウイルス対策が十分に実施されていない従来の避難所は、集団感染が多く確認されていることから日本政府が回避を求めている以下の3つの密を満たしやすい傾向があり、早急な対応を求めているのが現状です。
- 換気が悪い空間(密閉空間)
- 人が密集している(密集場所)
- 近距離で会話や発声が行われる(密接場所)
例えば避難所が避難者同士の十分なフィジカルディスタンス(身体的距離)を確保するためには避難所の収容人数を減らす必要があり、避難所だけでなく自宅や知人宅、ホテル・旅館など様々な場所へ避難する分散避難を推奨しています。
集団感染リスクを防ぐためにボランティアの縮小およびに自粛をせざる得ない状況になる場合もあるのです。
実際に朝日新聞が発表する「コロナ禍に大災害が襲ったら 避難所は、ボランティアは」によれば、実際に新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する声が一部の住民から寄せられたことで復旧作業にあたっていたボランティアは活動の自粛を余儀なくされました。
企業の場合は、2011年の東日本大震災で約515万人の帰宅困難者が発生し、無理に帰宅を始めた帰宅困難者が人命救助の妨げになるなど様々なトラブルへ繋がったことから一時的な帰宅困難者の帰宅の抑制が「東京都帰宅困難者対策条例」の条例17号などで求められています。
【東京都帰宅困難者対策条例条例17号】
事業者に従業者の一斉帰宅の抑制と従業者の3日分の食糧等の備蓄についての努力義務を課します
しかし、帰宅困難者の帰宅の抑制は新型コロナウイルス発生以前に推奨されていた対応であり、コロナ禍の現在では帰宅困難者となった従業員を全員オフィスに避難させることは最善だとは断言できません。
というのも十分に新型コロナウイルス対策を実施していなければ帰宅困難者となった全ての従業員をオフィスに滞在させると集団感染が発生してしまうリスクがあるからです。
そのため、企業の場合もきちんと新型コロナウイルス対策や避難所の動向などをきちんと把握しておく必要があります。
変化が求められる今後の防災

新型コロナウイルスが蔓延する今の状況下では、これまで実施していた防災が通用しない可能性が高く、きちんと新型コロナウイルスを踏まえた対応を行う必要があります。
それを考えるにあたっては、まず新型コロナウイルスの感染経路を把握しておきましょう。
現時点で立証されている新型コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染の2種類です。
【飛沫感染】
新型コロナウイルス感染者による咳やくしゃみによって飛び散った飛沫(ウイルスを含んだ水分)を鼻や口から吸い込んで、感染することです。
現時点では飛沫の最大飛距離は約2メートルであり、これ以上離れていれば感染しないと考えられています。
【接触感染】
新型コロナウイルスの飛沫に手で接触し、その状態のまま目・鼻・口などの粘膜に触れると感染することです。
ドアノブや照明のスイッチ、貸し出される備品など不特定多数の方が触れる箇所には十分に注意する必要があります。
主な新型コロナウイルス対策には、以下のとおりですが、これだけでなく避難所などの動向も確認しておくと良いでしょう。
- 手洗い・アルコール消毒を徹底する
- フィジカルディスタンスを確保する
- 定期的に換気する
- マスクを着用する
新型コロナウイルスに感染しても主な症状が現れず少し体調が悪い程度にしか自覚できない無症状になるケースも確認されています。
CDC(アメリカ疫病予防管理センター)の「Presymptomatic Transmission of SARS-CoV-2 — Singapore, January 23–March 16, 2020」で発表されているとおり、無症状でも周囲に感染を拡大させていたと考えられる事例も見つかっているので、十分に注意が必要です。
例えば新型コロナウイルスを踏まえて出勤前に検温しておくことが大切ですが、無症状に発熱症状が見られない場合もあるため、体温だけでなく総合的に体調を確認しておきましょう。
また平時から日本政府が推奨する新しい生活様式に対応した上で、災害発生時に備えた防災対策を事前に導入しておくことが集団感染リスクを低減させるためには重要です。
詳しく新しい生活様式を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
3つに分類される災害

新型コロナウイルスを踏まえた防災マニュアルの策定や対策を導入にするにあたって、まずは災害にどのような種類があるのかを正しく把握しておく必要があります。
災害と一口に言っても様々な種類があり、災害は主に自然災害・人為災害・特殊災害(CBRNE災害)の3つに分類されています。それぞれの意味は以下のとおりです。
【自然災害】
異常な自然現象によって引き起こされる災害であり、地震や台風、土砂崩れ、津波、豪雨などがあげられる
【人為災害】
①都市災害
火災、大気汚染、水質汚濁など
②労働災害(産業災害)
勤務中や通勤中に労働が要因となって従業員が負傷したり、疫病にかかったりすること
③交通災害
車の交通事故や飛行機・船舶の事故など
④管理災害
操作ミスや管理の不備、ずさんな計画など
⑤環境災害
水質汚濁など環境破壊によって引き起こされる災害
【特殊災害(CBRNE災害)】
①Chemical(化学)
有害化学物質の漏洩や化学兵器によるテロなど
②Biological(生物)
病原体の漏洩やパンデミックなど
③Radiological(放射性物質)
原子力発電所の事故や放射能兵器によるテロなど
④Nuclaer(核)
核兵器を使ったテロなど
⑤Explosive(爆発)
事故やテロによる爆発
人為災害はまだしも特殊災害は普通の企業では起こり得ないと考える方も中にはいるかもしれませんが、Chemicalに該当する異臭事件などは日本でも頻繁に発生しています。
今回の新型コロナウイルスは特殊災害のBiologicalに分類されており、どのような災害が発生するのかをきちんと把握しておくことが大切です。
また複合災害は上記いずれかの組み合わせで発生しますが、コロナ禍の現在では自然災害との複合災害を重点的に対策しましょう。
理由としては前述したとおり、自然災害が起きると避難先で新型コロナウイルスの集団感染が発生するおそれがあるからです。
実際にコロナ禍と自然災害が組み合わさった複合災害はすでに発生しており、クロアチアの事例があげられます。
CROATIA WEEKの「Tremors continue in Zagreb」で発表されているとおり、2020年3月23日にクロアチアでマグニチュード5.5の大規模な地震が発生しました。
26,000棟以上の建物が損傷するなど広範囲にわたって深刻な被害を受け、人々はコロナ禍での避難生活を余儀なくされたのです。
幸いなことにクロアチアは地震発生以前から世界的にも厳格な新型コロナウイルス対策を徹底していたため、避難によって新型コロナウイルス感染者が急増することはありませんでしたが、現在も復旧作業が続いています。
防災マニュアルを策定するための4つの手順

ここまでコロナ禍における防災対策の現状とその基礎知識を紹介しました。次にまだ導入していないという方のために防災マニュアルの策定方法を説明していくので、ぜひ参考にしてください。
災害対策本部のメンバーを決める
まずは災害対策本部の設置基準はもちろん、メンバーとその役割を明確に定めておきましょう。
例えば札幌市役所が発表する「災害時の組織体制の例」によれば、以下のように災害対策本部の役割分担がされています。
【全体責任者・副責任者】
全体に向けた指示や災害対策に関する責任を負う
【情報連絡・広報係】
災害情報などの収集や管理、インターネットでの広報など
【消火・安全係】
火災の予防・初期消火や安全確認
【救出・救護係】
救助や負傷者の応急処置、医療機関への移送など
【避難誘導係】
危険な箇所・建物からの避難誘導や避難場所への誘導など
【社員救護係】
食糧などの持ち出しや調達・配布、帰宅困難者の対応など
【点検・修理係】
設備や機械、建物などの点検・修理など
上記のような部門のメンバーを選定し、訓練で対応を浸透させていく必要がありますが、場合によってはリーダーなどのメンバーが不在であったり、災害に巻き込まれてしまったりするなどの状況に陥るおそれがあります。
そのため、想定外の事態が発生した場合に備えて複数の代行者を選んでおくと安心です。
また各部門に指示や対応をきちんと浸透させるためには指揮系統を明確に定めておく必要があります。
災害などリスク発生時の組織マネジメントであるインシデント・コマンド・システムでは、以下の2種類が指揮系統として考えられているので、参考にすると良いでしょう。
【一元指揮】
各部門のリーダーから指示を受けたり、報告したりする指揮系統
【統合指揮】
各部門のリーダーを集めて全体責任者が指示を出したり、対応を共有したりする指揮系統
自然災害などリスク発生時の状況によって適切な指揮系統は変わりますが、指揮系統が途中で変わると混乱が生じるため、一度決めた指揮系統は厳守すると良いでしょう。
ここでは簡易的な紹介となりましたが、さらに詳しくインシデント・コマンド・システムを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
緊急連絡網を作成する
災害はいつどこで発生するのか分からず、場合によっては従業員が出先や自宅で災害に巻き込まれてしまうケースもあります。
そのため、迅速に安否確認や指示を出せるように事前に従業員の緊急連絡網を作成しておきましょう。
また災害発生時は被害の拡大を防ぐために迅速な安否確認が求められており、従業員の安否確認はもちろん、事業の継続または復旧に対応できる従業員を探すという重要な役割があるため、迅速に安否確認ができるように安否確認サービスを導入しておくと良いでしょう。
電話やメールで十分だと考えている方も中にはいるかもしれませんが、2011年の東日本大震災では震災直後に安否確認で回線が輻輳状態に陥ったことで通信規制が実施され、一時的に利用できなくなりました。
災害発生時に回線が輻輳状態に陥ることは決して珍しくないため、電話やメールだけでなく安否確認サービスや法人向けSNSも導入しておくと安心です。
オフィスのみで安否確認サービスを操作できるようにしてしまうと大規模な災害が発生した場合にスムーズに安否確認できなくなるおそれがあるため、どのような場所でも操作できるインターネットのブラウザを用いた安否確認サービスを導入した上で住んでいる地域が異なる複数の担当を任命しておくと良いでしょう。
また従業員が連絡先の変更を報告し忘れたままでいると災害発生時に安否確認が難しくなってしまうと平時の訓練などで定期的に連絡先に変更がないのかを確認しておきます。
ここでは簡易的な紹介となりましたが、さらに詳しく安否確認の手段を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
情報収集などの対応を定める
災害発生時は、被害を最小限に抑えるために的確な意思決定が欠かせません。災害発生後のフェーズは以下3つがあり、その都度、適切な意思決定やそれに基づく対応は変化していくのです。
- 警戒期・発生直後
- 発災期(約3日)
- 復旧・復興期
そのため、フェーズに応じて正確に状況を把握しておく必要があり、社内はもちろん取引先などと連携し、正確な情報収集を行いましょう。
情報収集の手段は様々ですが、災害情報のほかに災害の状況を把握する上では以下3つのメリットがあるSNSが企業や自治体で注目を集めています。
- 今、起きたばかりの事象がリアルタイムで分かる
- 報道ではカバーしきれない細かい情報も調べられる
- 災害発生時でもインターネットが繋がれば利用できる
SNSにはテキストだけでなく画像や位置情報もあわせて投稿されることが多いため、在宅勤務中の従業員が住んでいる地域付近の情報も具体的に把握することができます。
しかし、災害発生時は特にSNSには悪質なデマや誤った情報も投稿されやすいという大きなデメリットも抱えているのが現状です。
人海戦術でSNSに投稿された情報を分析しても正誤の判断が難しいため、事象の発生からタイムラグが空きますし、大量に情報が投稿されるので、どうしても必要な情報の取り漏らしが発生してしまいます。
デマや誤った情報の収集・発信が許されない企業や自治体は、この状況を踏まえてSNSを有効活用しつつも、SNSの問題点をクリアするためにFASTALERTをはじめとしたSNS緊急情報サービスの導入を進めています。
FASTALERTなどのSNS緊急情報サービスは、AIが自動的にリアルタイムでSNSに投稿された情報を収集・分析し、裏付けの取れた正確な情報のみをサービス利用者に提供する仕組みです。
SNSに投稿された情報分析の時間的・人的コストを削減できるだけでなく、初動対応を直ちに行えるようになるので、企業担当の方は導入を検討すると良いでしょう。
定期的に改善していく
防災マニュアルを一度策定したら、それで終わりではありません。
作成しただけでは災害発生時に本当に適切に機能するかどうかが判断できないため、定期的な防災訓練の中で定めた対応を浸透させつつ、防災マニュアルの機能性を確かめる必要があるのです。
防災訓練では災害発生時の状況に基づいたリアリティのあるシナリオの用意が必要不可欠ですが、シナリオを決して使い回すことがないようにしましょう。
というのも同じシナリオを使い回した形骸的な防災訓練を繰り返していると想定外の事態が発生した際に混乱が生じ、適切な対応がとれないおそれがあるからです。
また朝日新聞の「宮城)16市町村、防災訓練は中止や縮小 6月予定分」や青森県の十和田市役所が発表する「令和2年度十和田市総合防災訓練の中止のお知らせ」で語られているとおり、コロナ禍の現在では新型コロナウイルスの集団感染リスクを踏まえて防災訓練が縮小・自粛するケースも確認されています。
そのため、新型コロナウイルスの集団感染リスクを防ぐために防災訓練をオンラインで実施すると良いでしょう。
詳しく防災訓練のシナリオやオンライン防災訓練を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
コロナ禍にあわせた防災マニュアルを作成するための2つの鉄則

ここまで防災マニュアルの策定手順を紹介しました。ただし、コロナ禍の現在では新型コロナウイルスを踏まえた対応も盛り込む必要があるのです。新型コロナウイルスを踏まえた防災マニュアル作成のポイントを説明していきます。
経営資源にリスクが発生した場合の対応を決める
従来の防災マニュアルでは今ある経営資源(ヒト・カネ・モノ)に基づいたシナリオベースの内容になっている傾向がありますが、新型コロナウイルスの影響で想定以上に経営資源が不足する事態に陥るおそれも十分にあるのです。
そのため、大規模な災害によって取引先と連絡がつかない、従業員が出社できない状態が続いているなど経営資源自体にリスクが発生した場合の対応も明確に定めておくと想定外の事態が発生した場合も迅速に対処できるようになるでしょう。
集団感染リスクを防ぐ対応を導入する
前述したとおり、新型コロナウイルスの感染拡大が進む現在では集団感染リスクなどがあり、従来の防災では通用しないおそれがあります。
そのため、避難所の対応や日本政府が求める新しい生活様式などを参考に新型コロナウイルスを踏まえた対応を明確に定めておくことが重要です。
例えば新型コロナウイルスが蔓延する今の状況下で大規模な自然災害が発生した場合、従業員が帰宅困難者になるおそれがありますが、帰宅困難者となった全従業員をオフィスに滞在させると集団感染が発生してしまうリスクがあります。
コロナ禍の現在は分散避難が推奨されていますが、その他にも災害発生時に帰宅困難者となる従業員を少しでも減らし、従業員のフィジカルディスタンスを確保できるように普段からテレワークや在宅勤務とオフィスへの出社を交互に繰り返すローテーション勤務を実施しておくと良いでしょう。
新型コロナウイルスなどリスク情報の収集を強力にサポートする「FASTALERT」
災害発生時は、意思決定に基づいた初動対応をすみやかに開始するために、被害状況などの情報収集を行わなければなりません。
しかし、災害発生時はリソースが限られた状況の中で情報を精査しなければならず、場合によっては対応しきれないおそれがあり、これによって的確な対応ができない可能性があります。
この状況を解決するために自治体や企業では、AI情報収集サービス「FASTALERT」が活用されています。
FASTALERTは、自然災害・事故・事件など自治体や企業におけるリスクが発生した場合にAIが正誤を分析した上でほぼリアルタイムでサービス利用者に提供する仕組みです
弊社ではFASTALERTの紹介資料やSNSで炎上が起きる理由など、企業や自治体の防災担当者が抱えるお悩みを解決するために防災に関する資料を幅広く用意しています。
詳しくご覧になりたい方は、「防災お役立ち資料」から資料をお気軽にダウンロードしてください。
まとめ
今回はコロナ禍における防災の基礎知識とそれを踏まえた防災マニュアルの策定方法などを紹介しました。本記事の重要なポイントには、次の3点があげられます。
- コロナ禍で複合災害が発生すると避難先で集団感染が発生するおそれがあり、新型コロナウイルスを踏まえた防災を行うことが重要
- 自然災害による被害だけでなく集団感染リスクがあることからコロナ禍+自然災害の複合災害を重点的に対策することが望ましい
- 新型コロナウイルスによって想定以上に経営資源が失われてしまうケースも考えられるため、経営資源自体にリスクが発生した場合の対応も明確にしておく
この記事を参考に新型コロナウイルスを踏まえた防災に取り組みましょう。